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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)6990号 判決

原告(第一事件)

中谷ナリ子

ほか二名

(第二事件)

田中初美

ほか六名

被告(第一事件)

高砂企画株式会社

ほか一名

(第二事件)

丸越運送株式会社

主文

一  第一事件被告らは連帯して、第一事件原告中谷ナリ子に対し、二一五七万一五六八円及びうち一九六一万一五六八円に対する平成三年一〇月二四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第一事件被告らは連帯して、第一事件原告中谷由起及び同中谷里恵に対し、各一〇五九万五七八三円及びうち各九六三万五七八三円に対する平成三年一〇月二四日から支払済みに至るまで各年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

三  第二事件被告らは連帯して、第二事件原告田中初美に対し一四二〇万五一六一円、同田中真弥に対し六七三万七五八〇円、同田中秀に対し六七三万七五八〇円、同田中了に対し一四三万円、同田中照代に対し一四三万円、同石澤和義に対し三二四万三六一一円、同石澤幸子に対し二五二万三六一一円及びこれらに対する平成三年一〇月二四日から支払済みに至るまで各年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

四  第一事件原告中谷ナリ子、同中谷由起、同中谷里恵、第二事件原告田中初美、同田中真弥、同田中秀、同田中了、同田中照代、同石澤和義、同石澤幸子のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、第一事件について生じた費用はこれを五分し、その二を同事件原告らの負担とし、その余は同事件被告らの負担とし、第二事件について生じた費用はこれを七分し、その六を同事件原告らの負担とし、その余を同事件被告らの負担とする。

六  この判決は、一ないし三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  第一事件

1  第一事件被告らは連帯して、第一事件原告中谷ナリ子に対し、三七六七万九七三三円及びうち三四六七万九七三三円に対する平成三年一〇月二四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第一事件被告らは連帯して、第一事件原告中谷由起及び同中谷里恵に対し、各一七七三万円及びうち各一六七三万九八六六円に対する平成三年一〇月二四日から支払済みに至るまで各年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  第二事件

第二事件被告らは連帯して、原告田中初美に対し七三八五万一五六八円、同田中真弥に対し三一四二万五七八四円、同田中秀に対し三一四二万五七八四円、同田中了に対し三〇〇万円、同田中照代に対し三〇〇万円、同石澤和義に対し一六八〇万八九四〇円、同石澤幸子に対し、一三一〇万八九四〇円及びこれらに対する平成三年一〇月二四日から支払済みに至るまで各年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

本件は、自動車専用道路の追越車線上において、普通乗用自動車と普通貨物自動車とが停止し、その運転者及び同乗者が各車両の付近に佇立するなどしていたところ、後続の大型貨物自動車が追突し、全車両の運転者、同乗者が死亡した事故に関し、普通乗用自動車と普通貨物自動車の死者の遺族らが、死者が乗車していた車両以外の二台の車両の各保有者を相手に、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害賠償を求め提訴した事案である。

一  争いのない事実等(証拠摘示のない事実は、争いのない事実である。)

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成三年一〇月二四日午前二時四〇分ころ

(二) 場所 神戸市西区竜が岡五丁目第二神名道路下り線二一・三キロメートルポスト付近路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 停止車両

(先行停止車両)

第一事件被告高砂企画株式会社(以下「高砂企画」という。)が保有していた普通乗用自動車(姫路三三そ四五一二、以下「高砂車」という。)

(後続停止車両)

第二事件被告丸越運送株式会社(以下「丸越運送」という。)が保有し、亡中谷清志(以下「亡中谷」という。)が運転していた普通貨物自動車(名古屋八八あ一八五九、以下「丸越車」という。)

(四) 追突車両

第一事件、第二事件被告山章運輸株式会社(以下「山章運輸」という。)が保有し、亡岩間伝喜(以下「亡岩間」という。)が運転していた大型貨物自動車(三河一一あ二九三一、以下「山章車」という。)

(五) 事故態様

自動車専用道路の追越車線上において、高砂車と丸越車とが停止し、その運転者及び同乗者が各車両の付近に佇立するなどしていたところ、後続の山章車が追突し、高砂車の運転者ないし同乗者である田中靖貴(以下「亡田中」という。)、石澤俊之(以下「亡石澤」という。)、丸越車の運転者である亡中谷、山章車の運転者である亡岩間が死亡したもの

2  相続

(一) 亡中谷関係(甲第七号証)

亡中谷の妻である第一事件原告中谷ナリ子(以下「ナリ子」という。)、子らである同中谷由起(以下「由起」という。)、同中谷里恵(以下「里恵」という。)は、法定相続分に従い、亡田中の本件事故による損害賠償請求権を相続した。

(二) 亡田中関係(乙第二、第三号証、弁論の全趣旨)

亡田中の妻である第二事件原告田中初美(以下「初美」という。)、長女である同田中真弥(以下「真弥」という。)、長男である同田中秀(以下「秀」という。)は、法定相続分に従い亡田中の本件事故による損害賠償請求権を相続し、父である同田中了(以下「了」という。)、母である同田中照代(以下「照代」という。)は、亡田中の死亡により精神的損害を受けた。

(三) 亡石澤関係(乙第五号証、弁論の全趣旨)

亡石澤の父である第二事件原告石澤和義(以下「和義」という。)、母である同石澤幸子(以下「幸子」という。)は、法定相続分に従い、亡石澤の本件事故による損害賠償請求権を相続した。

3  損益相殺

(一) 第一事件原告中谷関係

本件事故により生じた損害に関し、自賠責保険から、ナリ子は一一八七万六八三五円、由起及び里恵は五六八万八四一八円の支払いを受けた。

(二) 第二事件原告田中関係

本件事故により生じた損害に関し、自賠責保険から、初美は三〇〇〇万円、真弥、秀は各一五〇〇万円の支払いを受けた。

(三) 第二事件原告石澤関係

本件事故により生じた損害に関し、自賠責保険から、和義・幸子は、各一七七九万二〇〇〇万円の支払いを受けた。

二  争点

1  免責ないし過失相殺

(一) 山章運輸の主張

本件事故現場は、高速道路の照明が設置されていない区間であり、事故現場は概ね直線道路であるが、その直前は湾曲しており、夜間、高速走行中の運転者にとつて見通しが悪い場所であり、このような場所において停車する場合、本線車道以外の場所へ停車させ、停止表示機材、発煙筒、ハザードランプ等により停止していることを表示すべきところ、亡中谷は、何らかかる措置をとることなく、追越車線上に丸越車を停止させていたのであり、このような車両の存在を予見すべき義務はない。したがつて、亡岩間には、前方注視義務違反の過失があるとはいえず、本件事故は、亡中谷の高速道路における停車禁止義務違反、停車措置不適切の過失により生じたものであり、また、山章車には構造上の欠陥、機能の障害はないから、山章は、自賠法三条但書により免責されるべきである。

(二) 山章運輸の主張

高速道路においては、法令の規定若しくは警察官の命令により、又は危険を防止するため一時停止する場合の他、原則として駐停車してはならないのであり、故障その他の理由により駐停車することがやむを得ない場合に限り、十分な幅員のある路肩等に駐停車することが許されているに過ぎない。また、故障その他の理由により本線車道等において運転することができなくなつた時は、速やかに右自動車を本線車道等以外の場所に移動するための必要な措置を講じなければならない。したがつて、危険を避けるための一時停止の他は本線車道上に自動車を駐停車させてはならず、やむを得ず駐停車する場合は路肩等にしなければならない。

しかるに本件では、高砂車も丸越車も、整備不良によるガス欠、エンジントラブル等により支障を来したわけでもなく、タイヤ交換、チエーン装備等を行う必要を生じたわけでもなく、路肩又は路側帯への退避も可能であつたにもかかわらず、かかる措置を行うことなく、本線車道上の追越車線に駐停止して立ち話をしていたものであり、高砂車、丸越車の運転者らの過失は重大である。したがつて、亡岩間は、前方注視義務を怠つておらず、山章車には構造上の欠陥又は機能上の障害がないから、山章運輸は免責されるべきであるが、仮にそうでないとしても、本件事故の発生に関する右停止各車両側の過失は、少なくとも七割を下らないから過失相殺がされるべきである。

(三) 丸越運送の主張

本件事故は、高速道路で急停止した高砂車との衝突を回避するため、丸越車が高砂車の後方に停車したところに前方不注視の山章車が追突し、右追突により前方に押出された丸越車が同車の前方に停止していた高砂車に衝突した事故である。

丸越車の停止は、急停止した高砂車との衝突を回避するための緊急避難的行為であつて、亡中谷に過失はなく、本件事故は、高砂車の急停車回避義務違反と山章車の重大な前方不注視及び時速約二〇キロメートルの速度超過との競合による共同不法行為の結果であり、また、丸越車には、構造上の欠陥、機能上の障害は認められないから、丸越運送は、自賠法三条但書により免責されるべきである。

仮に、右免責が認められないとしても、本件において高砂車が急停止したのは、亡田中が飲酒酩酊して高砂車を運転の上、同車を異常走行させ、これに対し丸越車が警笛吹鳴、パツシング等で注意をうながしたことに立腹したためと推認される。かかる急停車して後方を走行中の丸越車の進路を意図的に妨害し、丸越車の停車を余儀なくさせて本件事故を誘発した高砂車の責任は大きいから、大幅な過失相殺が認められるべきである。

2  高砂車の運転者

(一) 高砂企画の主張

高砂車を運転していたのは、警察の捜査により明らかとなつているように亡石澤であり、亡田中ではない。本件事故の直前、亡田中と亡石澤とは神戸三宮のスナツクで遊び、同店のママが酒が飲めない石澤が運転して発進したのを目撃しており、本件事故後、亡田中の体が頭部を後部窓右側部から頭部を車外に出し、首から下は右後部座席から右前部座席に渡り倒れていたことは事実であるが、高砂車は本件事故により左に一八〇度回転したのであるから、亡田中が助手席に座つていたとしても同衝撃によりかかる状態となることはあり得るし、仮に運転席にいたとしても、亡石澤と亡中谷とが車外で話合つている最中に何らかの事情により亡田中が高砂車の運転席に座つたところ、事故に遭つたという可能性も否定できないことを考慮すると、前記スナツクのママの供述を前提にして高砂車の運転者を判断するのが相当である。

(二) 丸越運送の主張

本件事故後、高砂車において、亡田中は、仰向けに倒れ、後部窓右側部から頭部を車外に出し、首から下は右後部座席から右前部座席に渡り倒れており、右側の運転席シートは後部座席まで移動し、その上部に血痕様のものが付着し、後部座席の背もたれは助手席シートより一七センチメートル後方に倒れていた。これは、亡田中が運転席に座つていたため、本件事故の際、同人の身体に加わつた重力で運転席が後部座席に押されて移動し、同人が運転席から後方に飛出す勢いで運転席の背もたれに重量がかかり、背もたれが後方に倒れたことを推認させるものであり、前部左側助手席には何の変形もないことに照らしても、本件事故時、同人が運転席に居たことは明らかである。

3  その他損害額全般

第三争点に対する判断

一  免責・過失相殺について

1  前記争いのない事実に加え、後掲の各証拠及び証人安妻健一の証言を総合すると、本件事故態様に関する証拠状況は、次のとおりである。

(一) 本件事故現場は、別紙図面のとおり、東西に通じる片側二車線(各車線の幅員約三・六メートル)の自動車専用道路である第二神明道路(以下「本件道路」という。)下り車線上にある。本件道路の制限速度は時速七〇キロメートルに規制され、非市街地にあり、路面はアスフアルトで舗装され、平坦であり、本件事故当時、乾燥していた。

本件道路の南側には、約一・八メートルの路側帯が設けられており、その南には高さ約一・〇メートルのガードレールが設置され、道路北側には、幅約〇・六メートルの路肩を挟み、幅約一・〇メートルの中央分離帯(ガードレール)が設置されており、同道路の上下線は完全に分離されている。

同道路の見通しは、本件事故現場の東方約二〇〇メートルまでR一六〇〇メートルの緩やかな左カーブが続き、同現場の西方は直線で進行方向における前方の見通しは良好である。

縦断勾配は、本件事故現場以東は、西への下り勾配約一・五四パーセント、同現場以西は同勾配約一・八五九パーセントであり、本件事故現場付近は、夜間の照明灯がなく、暗い(甲第二号証)。

(二) 本件事故前、本件事故現場付近を大型貨物自動車で通過した下田和哉は、実況見分時における指示説明等において、追越車線を走行中、先行車が進路変更をしたので前照灯を上向きにすると、前方約一六〇~一七〇メートルの地点に車両を認めたので減速し、進路変更し、走行車線を走りながら、追越車線に存した車両の状況を確認すると、普通貨物自動車、普通乗用自動車が停止したおり、両車の中間地点の中央分離帯付近に二名が佇立し、口論しているのを目撃したと供述している(甲第五号証、安妻証言)。

(三) 本件事故から約三〇分後に実施された実況見分によれば、本件事故直後の各車両の状況は、次のとおりであつた(甲第二号証)。

(1) 高砂車及びその乗務員等について

高砂車は、停止前のものと思われる約一〇・四メートルのスリツプ痕を残し、別紙図面の〈A〉の位置で逆向きに停止しており、亡田中は、同車の車内で、後部窓右側部から頭部を車外に出し、首から下は右後部座席から右前部座席に渡つた状態で仰向けに倒れており、車両後部窓ガラス上部枠が同人の首右側付近に食い込み多量の出血が認められた。

同車両のエンジンは停止し、無灯火で右前ドアは開放しており、同ドアの窓ガラスは完全に下げられ開いていた。チエンジレバーは、パーキングの位置に、ライトスイツチは、ハザードランプはオフの位置に、スモールライト点灯の位置に設定されていた。また、亡石澤は、別紙図面乙の地点で、頭部を南東に向け倒れていた。

(2) 丸越車及びその乗務員について

丸越車は、停止前のものと思われるスリツプ痕約一五~一七メートルを残し、別紙図面〈B〉の位置に停止しており、車体の幅・高さはいずれも約二メートルであり、銀色に塗られ、ライトを反射し易く、エンジンは停止しており、無灯火の状態で、ドアは左右共閉つており、損傷部位は主に前後部が大破していた。サイドブレーキが若干引上げられており、灯火スイツチ、ハザードランプはオフ、エンジンキーはオンの状態に設定されていた。

同車の運転者である亡中谷は、別紙図面甲地点でうつ伏せとなり、頭部を北に向け中央分離帯ガードレールにぶら下がつた状態で倒れていた。

(3) 山章車及びその乗務員について

山章車は、別紙図面〈C〉の位置に停止しており、亡岩間は、同車運転席において顔面口唇部から出血し、上半身を左方に傾けていた。エンジンは停止し、無灯火の状態でドアは左右とも閉つており、右前部が大破していた。

(4) 山章車は、追突前に約一七メートル程滑走の上、丸越車後部左側に追突し、丸越車を約八五メートル、高砂車を約二四メートル移動させた。山章車は、追突後、約六〇メートルのタイヤ痕を残して滑走し、ガードレールに激突後、さらに約四五メートル前進して停止した。

(四) 山章車の速度について

本件事故当時、山章車の運行記録計に使用されているタコグラフチヤート紙を解析したところ、本件事故直前の運転速度は約九三キロメートルと推定された(甲第一五号証の二)。

(五) 高砂車の運転者について

前記本件事故後における高砂車の車内の状況に加え、日本交通事故鑑識研究所の工学士大慈彌雅弘は、運転席の変形状況、特に運転席において前方から後方に向かつて大きな力が負荷され、運転席シートは後部座席まで移動し、シートバツクが後方に大きく倒れ、その上に血痕様のものが付着しており、亡田中は、車内において仰向けに倒れ、後部座席から頭部を車外に出し、首から下は右後部座席から右前部座席に渡り倒れていたことから、本件事故当時、高砂車の運転席には亡田中が着座していたものと鑑定していること(甲第一六号証の一、二)、高砂企画が調査を依頼した生保リサーチセンターの報告書においても、本件事故当時亡田中が高砂車の運転席に着座していたのは間違いないと判断していること(乙第七号証)などを総合すると、本件事故当時、同車の運転席には亡田中が着座していたものと認めるのが相当であり、右認定に反する的確な証拠はない。

しかしながら、本件事故前に亡田中、亡石澤は神戸三宮のスナツクに行き、亡田中は飲酒しており、酒を飲めない亡石澤が高砂車を運転し同店付近の駐車場から出て行くのを同店のママが確認しており(乙第七号証)、その後本件事故までの間に亡石澤と亡田中とが運転を交替したことをうかがわせる証拠はないこと、本件事故前、高砂車、丸越車が停止後、亡石澤と亡中谷とが車外で口論をしていた際、亡田中がその口論の様子を車内からうかがうためないしは追越車線に停止し続けることを気にし同車を移動させようとするなどの理由により、亡田中が運転席に着座することは十分有り得ることであつて、本件事故当時、亡田中が運転席に着座していたことから高砂車が停止する以前の運転を同人がしていたと断定することはできないことに照らし、高砂車が停止する以前に同車を運転していたのは亡石澤であると認める。

2(一)  以上により、本件事故態様を判断すると、本件事故は、本件事故現場において、何らかの理由により、まず亡石澤の運転する高砂車がスリツプ痕を残し停止し、ついで後続していた亡中谷の運転する丸越車がスリツプ痕を残し停車し、後続車両が付近を通過する中、両車の中間地点の中央分離帯付近で亡石澤と亡中谷とが佇立して口論をし、また、亡田中が高砂車の運転席に着座しているところへ、亡岩間の運転する山章車が時速約九三キロメートルの速度で丸越車に追突し、関係者である亡石澤、亡田中、亡中谷、亡岩間の全員が死亡したものであることが認められる。

(二)  右認定事実をもとに、免責・過失相殺の主張について検討すると、本件事故現場は、高速道路の照明が設置されていない区間であり、事故現場は概ね直線道路であるが、その直前は湾曲しており、夜間で照明設備もなく、高速走行中の運転者にとつて見通しが悪い場所であり、このような場所において停車する場合、本線車道以外の場所へ停車させ、停止表示機材、発煙筒、ハザードランプ等のより停止していることを表示すべきところ、亡石澤、亡中谷は、かかる措置をとることなく(もつとも、亡石澤は灯火スイツチはスモールながら点灯の状態にしていたものと認められる。)、追越車線上にそれぞれ高砂車、丸越車を停止させていたのであるから、両名には高速道路における停車禁止義務違反、事故回避措置不適切の過失があるものと認められる。

他方、丸越車は高さ、幅とも約二メートルの大きさがあり、銀色に塗られ、ライトを反射しやすい車体を有しており(また、その前方で停止していた高砂車の車体が後方から見て丸越車のやや左側に出ていたため)、高砂車のライトは後続車にとつても確認することが可能であつたにもかかわらず、山章車を運転していた亡岩間は、制限速度を約二三キロメートルも超過する時速約九三キロメートルの速度で追突したのであるから、前方不注視、速度違反の過失があるものと認められる。

したがつて、各被告の前記免責の主張は採用できない。

(三)  そこで各運転者の過失割合について検討すると、まず、停止車両である高砂車・丸越車の両運転者の総体と追突車両である山章車の運転者との過失割合は、本件道路は自動車専用道路、すなわち、広義の高速道路における停止車両に後続車両が追突したという事故であるところ、関係証拠上、高砂車・丸越車には、ガス欠、エンジントラブル、タイヤ交換、チエーン装着等、停止、特にその継続の必要性・相当性を認めるに足る的確な証拠はないから、両者の過失の基本割合はそれぞれ五割と判断するのが相当である。

右基本割合をもとに、さらに検討すると、停止車両である高砂車・丸越車側には、夜間であり、弯曲し、照明設備がない暗い場所であること、停止場所が追越車線であること、停止表示器材を設置した形跡はなく、また、後続停止車両である丸越車は尾灯等を点灯していなかつた加算要素があり、他方、追突車両である山章車側には時速約二〇キロメートルを超える速度違反等(前方不注視は前記基本割合において評価済み)の加算要素があることを考慮し、前記過失の基本割合を修正すると、停止車両である高砂車・丸越車の両運転者と追突車両である山章車の運転者との過失割合は、それぞれ前者の総体が六割五分、後者が三割五分であるものと認めるのが相当である。

さらに、停止車両各運転者の過失割合を検討すると、高砂車側には、最初に追越車線でスリツプ痕を残しつつ急停止し、本件事故の発端を作つた責任があること、その後、後続車両が通過しているにもかかわらず中央分離帯付近で口論するなどして前記停止を継続した過失があることなどの事由があり、他方、丸越車側には、停止中ハザードランプ、尾灯等を点灯していなかつたこと、後続車両が通過しているにもかかわらず中央分離帯付近で口論を続けるなどして前記停止を継続した過失があることなどの事由があるから、高砂車、丸越車の各運転者等の過失割合は、それぞれ三割五分、三割と認めるのが相当である。

(四)  なお、前記のとおり、亡田中は、本件事故現場に高砂車が停止するまで同車を運転していたものとは認め難いが、本件事故時には同車の運転席におり、いつでも同車を移動できる状態にあつたものと認められること、同人は、同車を運転していた亡石澤の上司であり、亡石澤とともに高砂企画の用務のため高砂車に乗車していたのであり、同車の運行に関し亡石澤に対し指揮・指図し得る立場にあつたものと解されることに照らすと、亡石澤と共に高砂車の停止を継続させたことについての過失を免れず、亡石澤と同様の割合による過失相殺をなし、後記本件事故により亡田中及びその遺族に生じた損害から三割五分を減額するのが相当である。

また、第一事件、第二事件の各被告は、同一場所、同一機会に相互の過失により本件事故を惹起させたものであり、共同不法行為者としての責任を免れないから、自己の過失割合いかんにかかわらず、後記それぞれの事件の原告に関する認容額の全額につき、不真正連帯債務者としての賠償責任を負うものと解するのが相当である(もつとも、このように解すると、加害者は被害者に対し前記自己の過失割合以上の損害額を負担することになるが、過失相殺が基本的には被害者の過失の存在を理由に損害額を減額とする制度である以上やむを得ないものがあり、他方、このように解しても、事後に共同不法行為者間での求償をなすことにより、最終的責任を自己の過失割合の範囲に限定することが可能なのであるから不合理とはいえない。)。

(五)  以上から、後記本件事故により丸越車の運転者である亡中谷及びその遺族に生じた損害(第一事件)に関し、その三割を過失相殺により減額し、同じく高砂車の同乗者ないし運転者である亡田中及びその遺族、亡石澤及びその遺族に生じた損害(第二事件)に関し、その三割五分を過失相殺により減額するのが相当である。

二  第一事件の損害

前記認定事実に加え、後掲の各証拠によれば、次の事実が認められる。

1  亡中谷の損害

前記認定事実に加え、後掲の各証拠によれば、次の事実が認められる。

(一) 逸失利益(主張額六五七一万三一三七円)

亡中谷は、本件事故当時、四六歳であり、妻と二人の子供を扶養する一家の支柱であり、本件事故時である平成三年、勤務先の丸越運送から六四三万八六七七円の年収を得ていたことが認められる(甲第一、第六号証、弁論の全趣旨)。

弁論の全趣旨によれば、亡中谷は満六七歳まで二一年間就労が可能であつたと推認され、また、前記家族関係等を考慮すると、生活費としては三割を控除するのが相当であるから、中間利息控除にホフマン方式を採用し、本件事故当時の亡中谷の逸失利益を算定すると、次の算式のとおり、六三五六万六八六八円となる(一円未満切り捨て、以下同じ)。

6,438,677×(1-0.3)×14.1038=63,566,868

(二) 慰謝料(主張額二四〇〇万円)

本件事故の態様、亡中谷の死亡に至る経過、同人の職業、年齢及び家庭環境等、本件に現れた諸事情を考慮すると、慰謝料としては、二四〇〇万円が相当と認められる。

(三) 小計

以上(1)、(2)の損害を合計すると、八七五六万六八六八円となる。

2  過失相殺及び相続

前記認定のとおり、過失相殺により、本件事故により生じた亡中谷の損害から三割を減額するのが相当であるから、同減額を行うと残額は、六一二九万六八〇七円となる。

前記認定のとおり、ナリ子、由起、里恵は、それぞれ亡中谷の妻子であり、法定相続分に従い亡中谷の損害賠償請求権を相続したことが認められるから、右過失相殺後の残額を法定相続分に従い算定すると、各人の相続による取得額は、ナリ子が三〇六四万八四〇三円、由起、里恵がそれぞれ一五三二万四二〇一円となる。

3  葬儀費用(主張額一七〇万円)

弁論の全趣旨によれば、ナリ子は、亡中谷の葬儀費用を負担したことが認められるところ、本件に現れた諸事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある亡中谷の葬儀費用としては、一二〇万円をもつて相当と認められる。

前記認定のとおり、過失相殺により、本件事故により生じた損害から三割を減額するのが相当であるから、同減額を行うと残額は、八四万円となる(以上のナリ子の損害小計三一四八万八四〇三円)。

4  損益相殺及び弁護士費用

本件事故により生じた損害に関し、ナリ子は一一八七万六八三五円、由起、里恵は各五六八万八四一八円の支払いを受けたことは当事者間に争いがないから、前記ナリ子、由起、里恵の損害合計から右既払額を控除すると、残額はそれぞれナリ子が一九六一万一五六八円、由起・里恵が各九六三万五七八三円となる。

本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は、ナリ子が一九六万円、由起、里恵が各九六万円が相当と認める。

5  したがつて、前記各損害合計に右各弁護士費用を加算すると、損害合計は、ナリ子が二一五七万一五六八円、由起、里恵が各一〇五九万五七八三円となる。

三  第二事件の損害

前記認定事実に加え、後掲の各証拠によれば、次の事実が認められる。

1  亡田中関係

(一) 亡田中の損害

(1) 逸失利益(主張額一億六一七〇万三一三六円)

亡田中は、昭和三六年一〇月二五日に生まれ、本件事故当時、二九歳(事故の翌日三〇歳)であり、妻と二人の子供を扶養する一家の支柱であり、本件事故当時、実兄が代表取締役となつている高砂企画の専務取締役として平成二年度は七六二万円、平成三年度(事故時である一〇月まで)は一一二〇万円(一年に換算すると一三四四万円)の年収を得ていたことが認められる(甲第一号証、乙第六、第九、第一〇、第一二ないし第一四号証)。しかし、右収入は、年による格差があまりに大きく、平成三年の年収を将来の就労可能な全期間にわたり得ることができたとは認め難い上、右収入の中には役員としての利益配当分が含まれている可能性を否定できないこと、両年の収入の平均値に弁論の全趣旨から利益配当分と推認される三割を控除した額が七三七万円余((762万円+1344万円)÷2×(1-0.3))となり(もつとも、この額はその後増加傾向にあつたものと推認できる。)、平成二年度の年収に近しい額となることを考慮すると、控え目な認定として、事故後就労可能な全期間にわたり得ることができる逸失利益の基礎年収額としては、平成二年度の年収である七六二万円を採用するのが相当である。

弁論の全趣旨によれば、亡田中は満六七歳まで三七年間就労が可能であつたと推認され、また、前記家族関係等を考慮すると、生活費としては三割を控除するのが相当であるから、中間利息控除にホフマン方式を採用し、本件事故当時の亡田中の逸失利益を算定すると、次の算式のとおり、一億一〇〇一万五八八三円となる。

7,620,000×(1-0.3)×20.6254=110,015,883

(2) 慰謝料(主張額二四〇〇万円)

本件事故の態様、亡田中の死亡に至る経過、同人の職業、年齢及び家庭環境等、本件に現れた諸事情を考慮すると、慰謝料としては、二〇〇〇万円が相当と認められる。

(3) 小計

以上(1)、(2)の損害を合計すると、一億三〇〇一万五八八三円となる。

(二) 過失相殺及び相続

前記認定のとおり、過失相殺により、本件事故により生じた亡田中の損害から三割五分を減額するのが相当であるから、同減額を行うと残額は、八四五一万〇三二三円となる。

前記認定のとおり、初美、真弥、秀は、それぞれ亡田中の妻子であり、法定相続分に従い亡田中の損害賠償請求権を相続したことが認められるから、右過失相殺後の残額を法定相続分に従い算定すると、各人の相続による取得額は、初美が四二二五万五一六一円、真弥、秀がそれぞれ二一一二万七五八〇円となる。

(三) 葬儀費用(主張額一〇〇万円)

弁論の全趣旨によれば、初美は、亡田中の葬儀費用を負担したことが認められるところ、本件に現れた諸事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある亡田中の葬儀費用としては、一〇〇万円をもつて相当と認められる。

前記認定のとおり、過失相殺により、本件事故により生じた損害から三割五分を減額するのが相当であるから、同減額を行うと残額は、六五万円となる(以上の初美の損害小計四二九〇万五一六一円)。

(四) 了、照代の固有の慰謝料(主張額三〇〇万円)

本件事故の態様、亡田中の死亡に至る経過、同人の職業、年齢及び家庭環境等、本件に現れた諸事情を考慮すると、その父母である了、照代の固有の慰謝料としては、各二〇〇万円が相当と認められる。

前記認定のとおり、過失相殺により、本件事故により生じた了・照代に生じた損害から三割五分を減額するのが相当であるから、同減額を行うと残額は、一三〇万円となる。

(五) 損益相殺及び弁護士費用

本件事故により生じた損害に関し、初美は三〇〇〇万円、真弥、秀は各一五〇〇万円の支払いを受けたことは当事者間に争いがないから、前記初美、真弥、秀の損害合計から右既払額を控除すると、残額はそれぞれ初美が一二九〇万五一六一円、真弥・秀が各六一二万七五八〇円となる。

本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は、初美が一三〇万円、真弥、秀が各六一万円、了・照代が各一三万円が相当と認める。

前記各損害合計に右各弁護士費用を加算すると、損害合計は、初美が一四二〇万五一六一円、真弥・秀が各六七三万七五八〇円、了・照代が各一四三万円となる。

2  亡石澤関係

(一) 亡石澤の損害

(1) 逸失利益(主張額四一八〇万一八八一円)

亡石澤は、昭和三九年一月三〇日に生まれ、本件事故当時、二七歳の独身男性であり、本件事故時である平成二年、三八六万二九二六円の年収を得ていたことが認められる(甲第一号証、乙第四号証)。

弁論の全趣旨によれば、亡石澤は満六七歳まで四〇年間就労が可能であつたと推認され、また、前記家族関係等を考慮すると、生活費としては五割を控除するのが相当であるから、中間利息控除にホフマン方式を採用し、本件事故当時の亡石澤の逸失利益を算定すると、次の算式のとおり、四一八〇万一八八一円となる。

3,862,926×(1-0.5)×21.6426=41,801,881

(2) 慰謝料(主張額二〇〇〇万円)

本件事故の態様、亡石澤の死亡に至る経過、同人の職業、年齢及び家庭環境等、本件に現れた諸事情を考慮すると、慰謝料としては、二〇〇〇万円が相当と認められる。

(3) 小計

以上(1)、(2)の損害を合計すると、六一八〇万一八八一円となる。

(二) 過失相殺及び相続

前記認定のとおり、過失相殺により、本件事故により生じた亡石澤の損害から三割五分を減額するのが相当であるから、同減額を行うと残額は、四〇一七万一二二二円となる。

前記認定のとおり、和義、幸子は、それぞれ亡石澤の父母であり、法定相続分に従い亡石澤の損害賠償請求権を相続したことが認められるから、右過失相殺後の残額を法定相続分に従い算定すると、各人の相続による取得額は、和義、幸子がそれぞれ二〇〇八万五六一一円となる。

(三) 葬儀費用(主張額一〇〇万円)

弁論の全趣旨によれば、和義は、亡石澤の葬儀費用を負担したことが認められるところ、本件に現れた諸事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある亡石澤の葬儀費用としては、一〇〇万円が相当と認められる。

前記認定のとおり、過失相殺により、本件事故により生じた損害から三割五分を減額するのが相当であるから、同減額を行うと残額は、六五万円となる(以上の和義の損害小計二〇七三万五六一一円)。

(四) 損益相殺及び弁護士費用

本件事故により生じた損害に関し、和義、幸子が各一七七九万二〇〇〇円の支払いを受けたことは当事者間に争いがないから、前記和義、幸子の損害合計から右既払額を控除すると、残額はそれぞれ和義が二九四万三六一一円、幸子が二二九万三六一一円となる。

本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は、和義が三〇万円、幸子が二三万円が相当と認める。

前記各損害合計に右各弁護士費用を加算すると、損害合計は、和義が三二四万三六一一円、幸子が二五二万三六一一円となる。

四  まとめ

以上の次第で、連帯して、第一事件原告中谷ナリ子の請求は、二一五七万一五六八円及びうち弁護士費用を除いた一九六一万一五六八円に対する本件事故の日である平成三年一〇月二四日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、同中谷由起及び同中谷里恵の請求は、各一〇五九万五七八三円及びうち弁護士費用を除いた各九六三万五七八三円に対する前記平成三年一〇月二四日から支払済みに至るまで各前記年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、第二事件原告田中初美の請求は一四二〇万五一六一円、同田中真弥の請求は六七三万七五八〇円、同田中秀の請求は六七三万七五八〇円、同田中了の請求は一四三万円、同田中照代の請求は一四三万円、同石澤和義の請求は三二四万三六一一円、同石澤幸子の請求は二五二万三六一一円及びこれらに対する前記平成三年一〇月二四日から支払済みに至るまで前記年五分の割合による各遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれらを認容し、前記各原告のその余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、第一事件について生じた費用はこれを五分し、その二を同事件原告らの負担とし、その余は同事件被告らの負担とし、第二事件について生じた費用はこれを七分し、その六を同事件原告らの負担とし、その余を同事件被告らの負担とすることとし(なお、両事件共通のものとして生じた費用は、その半額が各事件について生じたものと推認し、前記割合に応じて各当事者が負担するものとする。)、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 大沼洋一)

別添 略

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